遺言執行者の権限

やむを得ない事由がなくても、自己の責任で復代理人を選任できるようになりました。

【改正前1016条1項】

遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。

【新民法1016条1項】

遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。

遺言執行者に就く者は、相続人・親戚など専門家じゃない人がほとんど。

それなのに復任権の制限された改正前民法では、遺言執行者の負担が大きかった。

そこで遺言執行者の負担を軽くするため、復任権の制限をゆるくする改正がありました。

なお新1016条1項のただし書により、遺言者が反対の意思を示したときは、いままでどおり復任権が制限されることもあります。

特定財産承継遺言(遺産分割の方法の指定)であっても、遺言執行者は権限を行使できるようになりました。

いままで「遺産分割の方法の指定」と呼ばれてきたものが、改正により「特定財産承継遺言」と呼び名が変わりました。

特定財産承継遺言(遺産分割の方法の指定)とは、ザックリ言うと「被相続人が、特定の不動産、特定の預貯金について100%決めること」です。

(例)

  • 被相続人X 配偶者A 子供B・C
    甲土地 乙土地がXの遺産
  • 被相続人Xは「甲土地はAに相続させる」「乙土地はBとCに2分の1ずつ相続させる」と遺言書に書いていた

上記の①「甲土地はAに相続させる」②「乙土地はBとCに2分の1ずつ相続させる」の部分が、それぞれ特定財産承継遺言にあたります。

特定財産承継遺言によって、甲土地をAが相続し、乙土地をBとCが2分の1ずつ相続します。

上記のような特定財産承継遺言があった場合、被相続人が100%を決めたので、遺言執行者に何の権限も生じませんでした(仮に①のみ②のみ場合は、特定財産承継遺言がなかった側の土地について遺言執行者の権限は生じる)。

それが改正により特定財産承継遺言があった場合でも、遺言執行者は権限を行使できるようになりました。

権限を行使できる具体例として…

  • 相続を登記原因とする所有権移転登記
  • 特定財産承継遺言である預貯金債権の払戻し・解約

ただし預貯金債権の解約については、金融機関口座の全額を対象とする特定財産承継遺言がなければできない点に注意です。

遺贈の履行は、遺言執行者がいる場合、遺言執行者のみ行うことができる規定が明文化されました(1012条2項)。

言いかえると受遺者が請求すべき相手は、相続人ではなく遺言執行者のみです。

したがって受遺者は、遺言執行者を被告にしなければなりません。

相続人を被告として訴訟を提起した場合、それは却下事由に該当します。